建設アスベスト訴訟とは
1. 建設アスベスト訴訟とは
建設現場では、石綿を含む建材が使用されてきました。そのため、そのような建材が原因となって発生した粉じんに暴露して、石綿関連疾患(中皮腫、肺がん、石綿肺など)を発症する建設労働者の方が多数発生しています。
建設アスベスト訴訟とは、石綿含有建材によって健康被害を受けた労働者とその遺族が、石綿の危険性を知りながら建材を製造、販売し続けたメーカーと、規制を怠ってきた国に対し損害賠償を請求している裁判です。
建設アスベスト訴訟は、東京、神奈川、京都、大阪、福岡、札幌、静岡の7つの地域で訴訟が提起され、新たに、当弁護団が仙台地方裁判所に提訴し、被災者救済のために全国的に訴訟が展開されています。
現時点では地裁及び高裁で合計12件の判決が出ており、そのうち、国の責任は11判決で、企業の責任は6判決で認められています。
また、2018年3月の東京高裁判決、2018年8月、同年9月の大阪高裁判決、2019年11月の福岡高裁判決の4つの高裁判決では、一人親方等に対する国の責任も認められました。
2. 国の責任
(1) 国の責任の内容と時期
建設アスベスト訴訟における国の責任は、国の規制権限の不行使が違法となるかという点が問題になっています。
これまでの訴訟では、①労働安全衛生法関係、②アスベストの製造禁止、③建築基準法関係が主な争点となっています。
この点、国の責任を認めた判決で国の規制権限不行使が違法とされた理由としては、①防塵マスクを労働者に使用させることの義務、②石綿建材への警告表示の義務、③建築現場における掲示の義務、④集塵機付き電動工具の使用の義務、これらを事業者に義務付けなかったことが主なものです。
もっとも、国の責任をどこからどの時点まで認めるかは、判決によって異なっています。
また、屋外作業については、いわゆる「京都第1陣」訴訟の判決で、平成14年から危険性の予見可能性を認め、屋外作業についても国の責任を認めましたが、それ以外の判決では国の責任が否定されています。
(2) 一人親方、零細事業者への責任
労働安全衛生法の保護対象は「労働者」のため、いわゆる「一人親方」や「零細事業者」(一人親方等)は、労働安全衛生法の適用対象とならないことから、国賠法上の保護対象とならないのではないかという点も争われてきました。
この点、「東京第1陣」訴訟の高裁判決では、一人親方等も国賠法上の保護対象として権利救済を認められました。
その後、「京都第1陣」訴訟の高裁判決、「大阪第1陣」訴訟の高裁判決なども一人親方等の救済を認める判断が示されていますが、その対象の範囲は、判決によって異なっています。
(3)責任の割合
多くの判決は、国の損害賠償責任を3分の1としていますが、いわゆる「大阪第1陣」訴訟の高裁判決では、国の損害賠償責任を2分の1としています。
3. 建材メーカーの責任
石綿建材を製造・販売をする企業は、石綿建材の切断等による石綿粉じんによって健康被害を受ける危険性について予見可能だったといえます。
そこで、建設アスベスト訴訟では、石綿建材を購入、使用する者に対して危険性について警告を表示すべき義務(警告表示義務)を負っており、この義務に違反したとして、企業の責任を問うています。
これまでの裁判では、2地裁、4高裁の判決で、建材メーカーの責任が認められました。
これら建材メーカーの責任を認めた判決は、建材メーカーら石綿建材製造期間と被害者の就労期間との重複や、建材メーカーらのシェアと被害者が作業を行った建設現場の現場数、あるいは被害者らの供述から建材メーカーらが製造・販売した主要な石綿建材が被害者に到達したこと、あるいはその相当程度の可能性を認定して認めたものと考えられます。
もっとも、対象となる企業範囲は、判決によって異なっています。